真田の家は築百年以上経つ茅葺の民家で、建て主はこの家で生まれ育った。現在は別の場所に住んでおられる建て主の生家を親戚や地域の住民が集まれる場所として再生させたいという要望でこのプロジェクトは始動した。
この民家は構造材が細く、解体してしまうと再び組み直すのが困難なため、骨組みはばらさずに再生する手法として、建物をスケルトンな状態にして一メートル程度持ち上げ、基礎や土台を造り再び下ろした。腐食している柱は交換か根継ぎをし、古色塗料の久米蔵を塗って新たに加えた材もすべて同じ質感とした。屋根材はフランス製の素焼瓦を採用した。この瓦は自然素材の味わいもあり遠目に見ると茅葺のようにも見える。
間取りは建物の中央部に畳敷きで14帖大に相当する茶の間と板張りで7.5帖大の広間を設け、手前に玄関と台所を配した。改修前の内部空間は水平天井を張っていたが、再生後は小屋組みを全て露出させており、天井の一番高いところまでは床から五メートル以上の高さになる。古材が細い事が軽快さを引き立たせ、空間にシャープな印象を与えている。ここに越屋根を設けて高窓をつけることで、暗くなりがちな小屋裏空間が明るくなり、空間を一層広く感じさせる効果が生まれる。
台所脇の水廻りは土間の名残で元々床が一尺程度下がっており、この上に背の低い二階をつくり七帖半大の寝間とした。寝間からは広間や茶の間まで見渡す事ができる。目線の先には朱色の建具があり、土壁と古色の木材の中で存在感を放っている。そこは建て主のプライベートな部屋として、唯一の個室空間であり、この建物を監視する覗き窓のようにも見える。