高瀬(熊本県玉名市)は菊池川河口に位置し、恵まれた地利と水運の発展により、江戸時代には大阪の堂島に運ぶ菊池川流域米の一大集積地として繁栄してきた町である。当時は米蔵が建ち並び、上方との商品流通も盛んな商人の町であった。
しかし、近代になると交通体系・商業構造等の変化により、衰退の一途を辿ることになる。
空家・空店舗が増えていくなか、平成十二年に地元の猿渡家から「町の活性化に役立てて欲しい」との意向で、玉名市に大小二棟の蔵付の町家が寄贈された。
建物は老朽化が進んでおり、町家を活用する為には早急に改修工事が必要であったが、平成十六年に玉名商工会議所が中心となり策定した「髙瀬蔵再生活用事業」が国(経済産業省)より「TMO計画」(中小小売商業高度化事業計画)として認定され、改修着工の運びとなる。
敷地は東西に長く、「高瀬商店街」の通りに面した母屋の部分は飲食店、展示スペースや会議室、東側の土蔵部分は多目的ホールとして改修。敷地西側の商店街通りと、東側の「裏川水際緑地公園」は敷地を介して通り抜けが可能で、「商業機能と公園機能を結ぶ公共歩廊」の役割を担った複合施設として計画した。
寄贈された旧家屋は明治初期のものと思われるが、地盤の不同沈下、雨漏りによる木材の腐朽等、かなり老朽化していた。今回の改修工事では建物を持ち上げ、コンクリート基礎を新設、瓦の葺替、木材の交換補強工事等を実施し再生している。
改修で大きく変更したのは、別棟であった大蔵・小蔵を連結し、一つの大空間とした点だ。大小の蔵が並んでいる「風景の記憶」は残しながら、イベントフロアとしてまとまった面積を確保するための工夫である。
多目的ホールの運営は商工会議所より「NPO法人髙瀬蔵」が委託されており、NPO会員有志の協働に支えられている。現在、「NPO自主事業」と「貸しホール事業」を合わせると年間約一八〇本のイベントが開催され、各方面から注目を集めている。
また、平成十八年度より祟城大学建築学科の秋元研究室が高瀬商店街にサテライト研究室を設置し、学生達が町に住みながら高瀬の町並みや、空家・空店舗の調査を開始した。
町づくりの核施設として、髙瀬蔵は順調な滑りだしをみせている。今後は住民を中心とし、行政、NPO、大学等の連携により、髙瀬蔵のもたらす賑わいを点から線、線から面へと繋げていくことができるかどうかが課題である。